荒海や佐渡によこたう天の川

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あの夜のこと

「荒海や佐渡によこたう天の川」
芭蕉の句だってことは、あとから知った。

でも、あの夜に見た光景が、
そのままこの句の中にあるような気がして、
あとから読んで、思わず「わかる」と小さくつぶやいた。

佐渡の夜。
潮の香りが濃くて、波の音がごうごうと響いていて、
少し肌寒い風が吹いていた。
空を見上げると、
ふいに銀の帯のような天の川が浮かんでいた。

あ、天の川って、ほんとうにあるんだ。
それは、図鑑や絵本で見たそれとは違って、
ずっと大きくて、ずっと静かで、
胸の奥がしんとなるような光だった。

星は、まっすぐに並んでいた。
けれど、その光の並びは、
どこか不器用で、でもやさしかった。

佐渡という場所には、
なんとなく“むこう”の匂いがある。
本土から見て、少し遠くて、
でも決して切り離せない気配。

旅人にとっては、
ちょっとだけ、心の避難場所みたいなところかもしれない。

そんな海の上に、
まっすぐ天の川が横たわっていた。
なんだか、それだけで泣きたくなった。

たぶんあのとき、私は少しだけ、さびしかった

旅に出る理由なんて、いつもはっきりしない。
誰かとけんかしたわけじゃないし、
何かに追われていたわけでもない。

でもあのとき、たぶん私は、
ひとりになりたかったんだと思う。

誰かと離れたくてというより、
「自分」として呼吸したくなった。

何者でもなくていい場所、
ただそこにいてもいいと思える時間。

そして気づいたら、佐渡にいた。

ふしぎなもので、
海をこえると、心も少し遠くなる。
遠くなるからこそ、
やっと見えてくる気持ちがある。

あの夜、星を見ていたら、
離れたくないもの、守りたいもの、
自分の一部みたいな大切な何かが、
はっきりと浮かびあがった。

佐渡の荒海に、
天の川が横たわっているのを見たとき、
胸の奥が、すこしだけあたたかくなったのを覚えている。

何も言葉にできなかったけど、
あの瞬間、私は確かに、何かを受け取っていた。

ことばにできない思い出も、ちゃんと心に残る

今でも、ときどき思い出す。
あのときの海の音、
髪をなでる風、
そして頭上に広がる、無数の星たち。

たぶん、あの夜のすべては、
もう二度と同じようには訪れない。

でも、それでいいと思う。

ちょっと拙くても、
うまく話せなくても、
ことばにならなくても、
思い出はちゃんと、心のなかに残っている。

そう思えるのは、
きっと、あの夜があったから。

🌌 小さな癒し屋さんでは、
あなたの心の“旅の記憶”に、そっと寄り添います。

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